23/11/04 童楽寺住職 安武 隆信 先生

子供のためのお寺 子供の居場所のお寺

里親制度の「現代版寺子屋を目指して〜地域と共に歩んだ15年」

 

毎日のように児童虐待のニュース。

なぜこんな世の中になってしまったのか?

出生率は低下してるのに、要保護児童は年々増加し、

現在、全国に約4.5万人います。

そのうち和歌山には約450人。安武隆信先生は、要保護児童として心に傷を負い、トラウマを抱える子どもたちと24時間、365日、「童楽寺」で一緒に生活をされています。

当然のことながら、それはとても難しいことで、子どもたちは日常生活を送りつつも虐待された記憶がフラッシュバックして、先へ進めなくなる時があるのだそうです。

 

目次

浦 正造さんとの出会い

安武先生の生まれは大阪ですが、お母さまが新城出身で、和歌山にご縁があったとのこと。

一冊の本「65の生きるヒント」という浄土宗の本との出会いで高野山大学へ進学。

宿坊のアルバイトを経て、20才から27才までお寺で住み込みの仕事をしながら高野山専修学院へ通いましたが、27才の時に高野山を降りることとなります。

大阪の実家には帰れず、祖父のいる新城へ……。

そこで、山村留学制度を作った浦正造先生との出会いがあり、浦先生の紹介で空いていた家に今の副住職と一緒に住むことになります。

 

同時期、安武先生は旅行会社の参拝ツアーで「先達」として案内をする仕事をしていました。そこで四国八十八ケ所巡拝添乗員をしておられたのが奥様の史さんだそうです。

結婚して子どもが生まれ、先生は一家を支えるために和歌山市のお寺に勤められました。

当時、新城の小学校には生徒が五、六人しかおらず、安武先生は子育てに不安を感じていたそうです。

 

「童楽寺」建立のきっかけ

ところで新城では40年前から、都会の子どもを地元の方々が受け入れ、それぞれの家庭から新城小学校に通うという山村留学の制度がありました。それを始められたのが浦先生です。

最初は2名だけだった留学生が最盛期には30名にもなり、浦先生もお年を重ねられたため、安武先生に「手伝ってほしい」という話がきたのだそうです。

それがきっかけとなり、

「子供たちをお預かりしてお勤めもできるお寺を作りたい」

という気持ちが安武先生の中で湧き上がり、紀三井寺の末寺に入るという形で、平成18年、古民家をお寺にした「童楽寺」が建立されました。

以降、安武先生は17年間で22人もの里親になっています。

 

さまざまな境遇の子どもたち

一番最初に里親となった子は、男の子。母親が養育できなかったため、満足に食事も摂れておらず、身体の小さい子でした。「童楽寺」に来た時には、

「お腹いっぱいご飯が食べたい」

と言っていたその子は、巣立って行くときには安武先生よりはるかに大きく成長していました。

 

シングルマザーの子で、夜働いてる母親と生活リズムが合わず、一人で生活してるのを見かねて祖母が連れてきたという子。

 

誰も自分のことを知らないところに行きたい、

自分が引きこもりだったことを知らない人たちのところに…という子も。

その子の気持ちを汲んで、安武先生は少人数の中学に進学させました。

子どもを健やかに育てるためには、その子に合った環境が大事だということです。

 

安武先生はすべての子どもたちと良い関係を築けたわけではなく、10ヶ月ぐらいでお別れした子もいたそうです。

両親がおらず、自暴自棄になってる子で、学校でも問題行動を起こしていました。

安武先生はその頃を振り返り、

「もっと他に方法があったのではないかと、今でも悪いことをしたと思っている」

とのことです。

 

信頼関係を築くために

複雑な家庭環境の中で育った子どもたちは、何をしても怒られる、良いことをしても認めてもらえない、ということが多く、「ありがとう」と「ごめんなさい」が言えない子に育っています。

「ありがとう」、「ごめんなさい」はコミュニケーションの基本です。子どもたちにはこの二つの言葉をこまめにかけて、少しずつ信頼関係を作ってゆくのだそうです。

 

また童楽寺では、地域性を生かしてご近所の方と子どもたちと、みんなで一緒に食事をします。

新城では子どもを地域みんなの子として考えてくれ、長屋のつきあいができる利点を活かし、畑でイベント等をおこなってくれたりもします。

大人のことを信用しない子たちとの信頼関係を築いてゆくために、安武先生は子供と一緒に何かをする、まさに「伴走」するという形で子供たちに接しておられます。

 

他にも、

「プチ一休さん体験」「短期子育て支援事業」「童楽寺ボランティア」

「青年の居場所」「震災避難者滞在支援」

など、行政がすぐに対応できない案件に対して、地域のボランティア力で色々な支援、発信をされています。

 

ゾウの社会では子供を集団で守りみんなで面倒をみて育てます。

家族の愛情やつながりは動物も人間も同じなのです。

大人も子どもも地域のコミュニティに溶け込んでいくことによって、

みんながつながっていき、その地域を作っていく。

実際にそうなっているのが、あたたかい新城の地域の人たちだと安武先生はおっしゃっています。

 

17年間の里親活動 ~安武史さん~

授業では安武先生の奥様、安武史さんも登壇してくださり、

「17年間の里親活動を通し伝えたいこと」としてお話しいただきました。

 

里親制度とは

『子供が健やかに成長して行くためには、あたたかい家庭が必要。

親の虐待、病気等の理由で自分の家庭で暮らすことのできない子供を

児童福祉法に基づいて、あたたかい愛情と理解を持って育てていく』

 

この17年間で学んだことは、

・子供は地域で育てる

・子供や地域住民、関係住民による活動が地域を元気にする

・児童福祉+地域活性化=山村留学精神の継承

子供を含め、皆んなが住みやすい地域に!

ということだそうです。

 

今後の目標は、

地域の役に立ちたいという想いと、

行政が行き届かないところの、ちょっと大変な状況で今すぐ助けてほしい、という人たちを助けていきたい

とのことです。

 

「私の日々の目標は自分や家族が健やかに楽しく

生活していくこと。

自分が元気であれば地域も元気になり

和歌山が元気になるのではないか」

とおっしゃっていました。

 

継続の大切さ

最後に、安武先生は

「自分がお坊さんであることによって、子どもたちを助けていけるのではないかという思いでやってきた。

でも、本当は自分自身が困っていたから。

長女が生まれた時、地域に子どもが少なく、子育てに不安を感じて初めたこと」

と話されましたが、それを17年間も継続されてるのはとても真似のできないことです。実際には大きな覚悟を持って始められたのではないかと思います。

 

安武先生ご夫妻からは、これから先もますます地域のお役に立ちたいという思いが熱く感じられました。

 

(授業レポート:ライター部 貞廣清美)



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