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2022/11/05 高知大学地域協働学部 黒笹慈幾(やすし)先生 授業レポート

目次

高知大学地域協働学部 黒笹慈幾(やすし)先生 授業レポート
「先を急がず、寄り道たっぷり シャクトリムシ遍路の愉しみ」 

紀州かつらぎ熱中小学校、第二回目2時間目の授業は高知大学地域協働学部・黒笹慈幾(やすし)先生です。黒笹先生は『釣りバカ日誌』のハマちゃんのモデルとして知られており、実際、釣りの腕は超一級だとのこと。2012年3月、高知県に移住され、豊かな自然の中で日々を送っておられます。今回は「先を急がず、寄り道たっぷり シャクトリムシ遍路の愉しみ」とのテーマで、高知県の魅力と新しいかたちの「歩き遍路」について伺いました。

ハマちゃんに学ぶシアワセのつかみ方

1974年小学館に入社した黒笹先生は、コミック誌の編集者として次々とヒット作を世に送り出しました。そのうちの一つが『釣りバカ日誌』。約80億円を売り上げたこの作品は、黒笹先生によると釣りが中心の物語ではなく、「究極のサラリーマン漫画」だそうです。ダメ社員のハマちゃんが実は社長と友達で、しかも釣り場では上下の立場が逆転する……。こんな設定はサラリーマンにとってはほぼファンタジー。そこにヒットの要因があった、と黒笹先生は感じているそうです。
そのハマちゃん、人間的にも魅力たっぷりのキャラクター。まずは彼に学ぶ4つのシアワセのつかみ方を紹介していただきました。

1.楽天脳と肯定脳を持つ
→ノーテンキな人間はストレスにめちゃ強い

2.利他なんか考えず、我利で動く
→自分が幸せだと、まわりも幸せにできる

3.迷ったときに戻る場所を決めておく
→人生のホームポジションを決めておくと、失敗しても安心してそこに戻ってこられる

4.意見の違いを恐れない
→「意見の違い」は新しいことの出発点。新しい発想は混沌の中から生まれる。

勤勉なサラリーマンとはちょっと違うハマちゃん独特のゆるさ。常識的な堅苦しさから解放された「自分なりのスタンス」を身に付けること、それがシアワセをつかむコツなのかもしれません。

高知県に移住した8つの理由

2012年3月、黒笹先生は高知県に移住されました。日本全国魅力的な土地が数多ある中で、どうして高知県を選んだのか……。その理由を簡潔に8つにまとめて、黒笹先生は話してくださいました。

1.高知のラテンな気風はよそ者にとってとても居心地がいい
→フードコート「ひろめ広場」には、よそから来た人を楽しませる地元の人の力がある。物価が安く、食べ物が美味しい。自然豊かな川と海と山があり、生まれながらに肯定脳と楽天脳をもったラテンの国を感じさせる人たちが住んでいる。

2.高知は釣り師にとって天国である
→「毎日が釣り日和」。釣りの女神に選ばれた土地。
「高知県は、海よし、川よし、ほどよき文明もあって人生の後半戦を生きるには実によい所である」(夢枕獏『忘竿堂日記』より)

3.高知には嫌いな人とは口をきかなくてもいいし、無理に仕事をしなくてもいいというステキな文化がある
→「定年退職とは嫌いなやつとはいっさい口をきかなくてもいいパスポートである」(尊敬していた定年退職の先輩の言葉)

4.高知はシニア世代の健康を支える「食」のクオリティがおそろしく高い
→野菜も肉も魚も安くておいしい。生活コストも安く済み、スーパーマーケットに通うのが楽しみになる

5.高知は東京に比べて自然に近い。最後は土に帰るのだからできるだけ土に近いところで老後は暮らすべき
→人間も自然の一部。必ず最後には土にかえるのだから、自然に近い所での生活を。

6.高知には高齢者の生活に都合のいいシステムがたくさんある
・モーニングとランチの文化
・時間を持て余している老人の遊び場(パチンコ、防波堤での釣り)
・アンチエイジング効果のある野菜が安い
・自分を見つめなおすシステム「お遍路」がある
・美味しいコーヒー豆文化
・老人の「うっかり病」を許す社会
→老人がいきいきできる生活の場が充実

7.高知では田舎と都市がほどよい距離で配置されている
→自然豊かな田舎と便利な都会、両方に家を持って住み分ける「マルチハビテーション」が安価にできる。

8.自分の中で「3・11の落とし前」をつけないと一歩も前に進めないと思った
→東日本大震災後、世の中が大きく変わってゆくと考えていたが、時間が経つにつれ何事もなかったかのように、誰もがまた元の生活に戻っていった。黒笹先生もその中の一人。「それはおかしい」と、ずっと違和感を持ち続けており、「3.11」がなければ行わなかった「人生の選択」をすることに。そうして高知への移住を決意した。

生きてゆく上での基本、人と食と住。そのどれもが黒笹先生の眼鏡にかなった場所が高知県だったのだと思います。でも、移住を突き動かした動機は「3.11」。黒笹先生の「違和感」がどれほど大きなものだったのかを窺うことができました。

いざ、お遍路ードへ!

黒笹先生は小学館での編集者時代、アウトドア雑誌『BE-PAL』を創刊されました。その2003年1月号で四国お遍路を長距離移動のツーリズム「ロング ビジタンス トレイル」として特集を組んだところ、大きな反響があったとのこと。それが記憶に残っていたこともあり、
「せっかく高知に移住したのだから、本気でお遍路のことを考えよう」
と、「お遍路」+「ROAD」=「お遍路ードプロジェクト」を立ち上げることに。それが歩き遍路を始めるきっかけとなったのだそうです。

「お遍路ードプロジェクト」

先を急ぐ旅から、先を急がない旅へ
悩みをかかえた旅から、刺激を求める旅へ
四国霊場88箇所開創1200年目の節目にあわせて
お遍路の文化を全く新しい旅のスタイル
ロング・ディスタンス・トレイルとして
再構築するキャンペーンが
「お遍路ードプロジェクト」

当初、黒笹先生はご自身でひっそり始めるつもりでしたが、ほどなく高知新聞で報道され、後には退けない状況に。
「こうなればやるしかない!」
と、従来の白装束ではなくモンベルの装備に身を包み、全長1540㎞の歩き遍路に臨んだのだそうです。
黒笹先生にとってお遍路は「文化」ではなく、「資産」だとのこと。無味乾燥な道路脇の遍路道を改めたり、誰もが泊まりたくなるような宿坊を整えたりし、産業振興につながる魅力的なルートに再構築する必要がある、その重要性を証明したいとの思いもあったということです。

講義のお題「シャクトリムシ遍路」そのままに、門前町の床屋で散髪をしたり、海を見下ろす眺望を満喫したり、手書き看板の愉快な誤字脱字を楽しんだり……。スタンプラリーのように先を急ぐのではなく、その日その日、肌で感じることを大切に進んでゆくお遍路ード。
歩いてみて初めてわかったトンネルの涼しさと、脇を走り抜ける車の風圧。そよ風の感触、日陰のありがたさ、心にしみる鳥の声や足裏にあたる土の柔らかさなど、黒笹先生は人間にとって本質的なこと、本来の心地よさを思い出すことができたそうです。
また、20㎞先の寺院は車では40分程度の距離。でも歩いて進む20㎞は丸一日分の距離。そんな生き物としての人間の距離感を取り戻し、誰もが歩くしかなかった昔の時代へと疑似タイムスリップも体験も味わいました。

最終的に2年間、126日をかけて黒笹先生は四国霊場八十八箇所を歩き通し、最後には高野山にて結願。御朱印をいただく際、
「歩きですか?」
と、確認してもらったことがとても嬉しかったとのことです。

お大師様は優秀なツアコン⁈

黒笹先生が歩き遍路を通して感じたこと、それは「お大師様は超優秀なツアーコンダクター」であるということ。へんろ転がしの難所と呼ばれる急こう配の山道やゴロゴロと怪しげな音の鳴る海岸など、遍路道にはさまざまなサプライズが。また、シロナガスクジラの子の埋葬に立ち会ったり、マンボウの胃袋を食する機会があったり、お遍路ードでは珍しい出来事との出会い、人との出会いにも恵まれたそうです。
お遍路は「同行二人」、一緒にお大師様が歩いてくださると言われていますが、黒笹先生にもその感覚は生まれ、何か良いことが起こると自然に「お大師様のおかげ」だと思うようになっていったとのことでした。

人生の「節目一覧表」

最後に黒笹先生が語ってくださったのは、人生の節目を意識することの大切さです。人生の「節目一覧表」を作り、節目節目に自分はどんな選択をしてきたのかを改めて考えてみることで、
「多くの選択をしてきた結果、必然的に自分は今ここに居る」
と、自身の人生に強い肯定感が生まれ、自分がどんな人間なのかをも冷静に見つめられます。
そして、黒笹先生は「人生の節目に歩き遍路を!」とも。人間は歩く動物、歩くだけでさまざまな気付きがあり、それは今後の人生のナビゲーターとなってくれるということです。

授業を終えて……

和歌山在住の私にとって、お大師様はとても身近な存在です。我が家の永代供養は高野山の寺院にお願いしていることもあり、「ちょっとお大師様に手を合わせて来よか」と、車で高野山へと向かうこともしばしばです。お大師様はいつも高野山で私たちを待っていてくださる、そのことが日々の安心感につながっています。

でも、黒笹先生の歩き遍路のお話を伺っていると、四国には一緒に歩いて語りかけてくださるお大師様がいらっしゃるんだ、ということがわかりました。私の感じているお大師様とはまた違うお大師様に会うために、そして生き物としての自然な感覚を取り戻すためにも、ぜひ歩き遍路を体験してみたい、そんな気持ちが自然と生まれてきた90分間の講義でした。

黒笹先生、どうもありがとうございました。

最後に、釣り師の黒笹先生です

授業の前日、天川村・管理釣り場にて釣りを楽しまれた黒笹先生。
他の客はほぼ釣れておらず、ガイドさんも「紅葉の季節にはなかなか釣れないよね」と言っていたそうですが……黒笹先生は20匹以上の釣果。やはりハマちゃんの腕は常人とは違うようです。

(授業レポート ライター部・大北美年)

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