2022/11/05 かつらぎ町長 中阪雅則先生 授業レポート

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かつらぎ町長 中阪雅則先生 授業レポート
「紀北東部連携とかつらぎ町の展開」

紀州かつらぎ熱中小学校、第二回目1時間目の授業はかつらぎ町長・中阪雅則先生です。
中阪先生は16年間をプールで過ごしてきた体育会系。中京大中京高等学校時代には水泳平泳ぎでオリンピック選考会に出場したほどの実力者です。この時の経験から、「常に意識のアンテナを高く保つ」ことを中阪先生はご自身に課しているということでした。
そんな中阪先生が、故郷・かつらぎ町に貢献したいと考え始めたのは50歳を回ってから。かつらぎ町でスポーツクラブを立ち上げたことがきっかけで、芳しくない町の状況がわかり始め、次第にそれが「自分事」に。56歳を迎えた時には海南市役所を退職し、人生を懸けるつもりでかつらぎ町長となりました。
授業では中阪先生の町長としての革新的な取り組みを伺いました。

かつらぎ町役場大改革

中阪先生がまず取り組んだのはかつらぎ町役場の改革です。従来の「お役所仕事」を一新し、能率的に機能する組織を作り上げるため、以下のことを実践しました。

・接客改善
来庁者を「客」と捉え、「接客」としての対応をすること。役場を訪れる人は何らかの用件がある人なので「言いたいことが上手く伝わるのだろうか」との不安感を持っている。それを安心感に変えられるかどうかは役場職員の力量次第。笑顔と挨拶の徹底、率先した声かけ、相手の話にしっかり耳を傾けること等を浸透させる。

・かつらぎ町役場のホールディングス化
「町長は政治家」。公約を掲げて当選したのだから、住民の代表者としてそれを達成するのは当然のこと。町長のもとで働く役場職員も公約を共有し、実現に向けて共に動いてゆかなくてはならない。
目標達成のためには組織としてのパフォーマンスを上げるべきで、そのためにかつらぎ町役場をホールディングス化。決済のすべてを町長一人が担うのではなく、各部署の執行責任者が判断して決済。日常的に報告・連絡・相談を部署間でおこない、連携してゆくことで、判断ミスや対応の遅れも防ぐことができる。

・リーダー育成
組織を強くするために重要なのは、ティーチング(指導)とコーチング(助言)をバランスよく組み合わせたリーダーの育成。リーダーは組織の軸としてチームの一体感を保つ役割を果たし、リーダーの力量が上がれば、組織全体のまとまる力が上昇。
具体的には、部下を適材適所に配すること、創意工夫ができる人材を育てること、そして理路整然とした言葉で相手が納得できる伝え方をすること等々、「人使い業」として人を上手に動かすことができるリーダーの育成に力を注いでいる。

中阪先生の役場改革を伺って、組織力を上げることは役場で働く一人一人の人間としての力を上げることにもつながってゆくのだな、と思いました。役場職員全体が「自分事」として仕事に向き合えば自然と行動の質が上がり、それが住みやすい町の空気感にも反映されてゆくのだと感じました。

子どもは社会の宝~子育て支援の充実~

かつらぎ町役場の改革をおこなった中阪先生は、次に町内の課題に目を向けました。かつらぎ町にはフルーツが豊富なこと、観光客が多いこと、利便性の高い道路網を持っていることなど多くの強みがありますが、それでも当時、町の人口は減り続けているのが現状でした。後に京奈和道、R480鍋谷道路が開通して交通の便がより良くなったにも関わらず、やはり転出者は転入者を上回るばかり。このままでは町は衰退し、住民から誇りや愛着が失われてしまう、と中阪先生は強い危機感を抱きました。
そこで打ち出したのが子育て支援の充実。生まれる子供が少なくても、転出せず町に留まってくれれば人口減少は緩やかとなるはずです。
具体的な施策として、まずは以下のことをおこないました。

・こども園の給食費は無償。
・子どものインフルエンザ接種を1000円に。
・高校卒業まで医療費は無償。
・小学校・中学校の給食費は無償。

こういった取り組みを続けてゆくうち、転入者と転出者が拮抗し始め、ついには転入者が上回る年度も。特に、「この年代の人口が多い町は将来的に人口が増える」と言われている0歳から5歳の人口は大きくプラスに転じました。子育て支援を充実させたことで、「二人目が生まれる時、どこへ家を建てるか」
若い世代がそう考えた時、かつらぎ町が選ばれているという手ごたえを中阪先生は感じているそうです。
「子どもは社会の宝で親の持ち物ではない。誰もが同じような生活ができるよう、社会が支えてゆくもの」
と、中阪先生は生まれた時の経済状況に左右されず、子育てにお金のかからない町を目指しています。

人口減少対策は、人口流出を止めることから

・子育てにお金がかからないことが重要
・公民連携が街を発展させてくれる
・企業版ふるさと納税が町を応援してくれる
・若い世代が住みやすい街は、全ての世代が住みやすい街
・街に愛着や誇りを感じられる住民づくり
・街のブランド化にはメディア戦略が重要
・SNSの発信力は必須

関西の「住み心地の良さランキング」で、1位は大阪・島本町、2位は芦屋、そして3位にかつらぎ町がランクイン。中阪先生のかつらぎ町改革は着実に実を結んでいます。

 

かつらぎ町の未来への展望

中阪先生が次に取り組もうとしていること、それは以下の7つです。

・公民連携による庁舎移転
・公民連携による地域優良賃貸住宅の建設
・かつらぎ西部公園の更なる整備・充実
・企業版ふるさと納税の活用による事業拡大
・電動モビリティを活用したお出かけ支援
・総合リゾート施設誘致による地域活性化
・TVや雑誌などのメディアに町の広告を出す
・SNSの発信力は必須

新庁舎は公民連携によって建てる計画で、1階から3階は庁舎、4階より高層は賃貸マンションとすることで、必要経費の軽減が見込まれるとのことです。
電動モビリティはいわゆるシニアカー。折りたたみ可能なそれをバスに積み込み、停留所を降りた先でも高齢者が自転車感覚で自由に使って動けるような、新しいかたちのお出かけ支援を考えているとのこと。
総合リゾート施設はかつらぎ町が大きなハブとなる構想。高野山や泉大津への直通バスが発着し、食・アート・テクノロジー・体験・学びをコンセプトに商業施設のほか、アウトドアスペースやグランピング、書店や温浴施設、採れたての果物をパティシエが提供するカフェなどを併設。100万人単位の観光客を見込める施設として、実現に向けてすでに動き出しています。
また、メディアへの発信力は町のブランド化につながると、中阪先生は多くのメディアへのアプローチの重要性に言及されました。SNSについても中阪先生が広告塔となり、Twitterでは多くのフォロワーを擁しているそうです。

授業を終えて……

「町長は政治家で、公約を実現させるために役場職員と共に目標を持って動く」先生の講義の中で、この考え方がとても心に残りました。ニュースを見ていても日常生活での身近な感覚でも、住民のために動いている政治家はなかなか見当たらず、しかもそのことに私たちは危機感すら抱いていない……。
中阪先生のかつらぎ町役場の改革からは、変えなくてはならないことを見極め、実際に変えてゆく力の大切さを学ぶことができました。
また、人口減少対策は隣接する町とのパイの奪い合いではなく、どのようすれば住民にとって住みやすい町になるのかを考え、その発想が結果的に転入者を増やし、そのことがまた環境を整えることつながっている、そんな上昇スパイラルが見えてきました。
狭い利ではなく広く公のための益を考えて行動に移し、それが目標達成につながってゆく、これはどのような仕事にでもあてはまる雛型になるのではないでしょうか。

中阪先生、どうもありがとうございました。

(授業レポート ライター部・ 大北美年)

 

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