2023/02/04 紀州食品株式会社 武井建登先生 授業レポート

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紀州食品株式会社 武井建登先生 授業レポート

2月4日、1時間目の授業は紀州食品株式会社 武井建登先生でした。武井先生は1952年から2016年まで64年間、紀州食品株式会社に勤務、農産物加工品の仕事一筋に歩んでこられました。背筋を伸ばして登壇され、張りのある声で授業をおこなう姿は94歳とは思えないくらい、はつらつとしたものでした。

加工食品を扱うための心がけ

武井先生がまずお話してくださったのは、長年携わってきた加工食品についてでした。
これまでの経験から武井先生が考える「加工食品を扱うための心がけ」は、以下のようなものです。

①美味しくめずらしい、健康に良いものを扱う

②消費者が求めているものを知る

③全国ネットで売れるものを選ぶ

④食べ物なので衛生管理に注意が必要。そのため一般の設備よりお金がかかることを念頭に置く。

例えば梅は、和歌山県を代表する加工食品として約300億円を売り上げているそうです。梅産業がここまで発展した理由として、武井先生が挙げられたのは、

・南高梅は良質な梅。しかも健康に良い。

・梅を塩漬けにしたものを原料としており保存ができる。そのため収穫の時期だけではなく、一年中加工ができる。

・基本は脱塩と着色なので、加工度が低い。

・少ない資金でも経営が可能。

・独自の付加価値を付けて売ることができる。

「加工食品を扱う心がけ」にも沿った項目がいくつかあり、このような好条件が重なったため、梅の加工業は成功しているのだということです。

ただ、これからの和歌山には梅以外にも100~200億円規模の加工食品を開発する必要があると武井先生は考えています。「できたものを売る」のではなく、今は消費者がどんなものを求めているのかをリサーチして売ってゆく時代。
そのため、和歌山県の工業技術センターに食品部を創設し、ハード面での援助を。また和歌山県に食品技術課を創設し販売促進の助言を得られるよう、ソフト面での援助を。新しい加工食品の開発を促すため、より充実した援助体制をと武井先生は働きかけたそうです。

高齢化についての提言

武井先生は88歳で会社から退いた際、これからどんな生き方をしようかと熟慮したとのこと。そして、積極的に人と会話すること、新聞を読んで世の中に対して関心を持ち続けることを今も実行されています。そんな武井先生が一番気がかりとなっていることが「少子高齢化」です。
現在、ベビーブームで生まれた世代が70代を迎えています。定年後も約半数の人は働き続けているというデータはあるのですが、それを70%まで引き上げれば労働人口が増え、少子化による労働者不足は解消するのではないか、と武井先生は考えています。
年齢相応の労働時間に配慮しつつ働き続ければ、生活リズムが整い、人と関わることで脳の劣化を防ぎ、新たな社会勉強にもなり、結果的に健康寿命を延ばすことにつながるのではないかと武井先生は考えています。

少子化についての提言

少子化については国家が真剣に考えるべきで、このままでは経済の発展は望めず国民の士気も下がり、国は衰退の方向に向かう、と、武井先生は強く危機感を覚えています。
制度の一つとして男性にも育児休暇があるものの、実施率はわずか10%。現代の女性は仕事に家事に育児にと負担が大きすぎるため、これからは男性が女性の役割の中へ進出して女性の負担を軽くし、その上で出生率を上げていくのが大切なのではないか、と武井先生は考えています。
赤ちゃんを抱くと男性女性に関わらずホルモンが出て、子どもを可愛く思う気持ちが生まれるとのこと、従来の固定観念に捉われることなく、共に子供を育てる社会へと変化することで少子化は徐々に解消されるのではないかと、武井先生は根本的なところからの変化を望んでおられるようでした。

健康長寿について

授業の最後の質疑応答で、武井先生には「健康長寿について」の質問が多く寄せられました。90分もの長い授業を武井先生は淡々とよどみなく進められ、体力知力共に94歳の年齢をまったく感じさせない姿でした。
生徒からの質問に答えた武井先生の日常をまとめると、

・毎朝、2誌の新聞を読む。本を読む。

・社会の動きを知るため、常に情報を得るアンテナを立てておく。

・積極的に人と接する機会を作る。

・ウォーキング(2~3㎞)と自己流の体操、ゴルフを月2,3回(これも人と話をする機会となる)

・アルコールは時々、缶ビール1本、もしくはワインで晩酌

・食事はバランスよくきちんと三度食べる。

お話を伺う中で、「人と接して会話する」ことを特に大切にされているように感じました。

授業を終えて

武井先生の授業を受ける前、私は先生の長い人生経験など「過去」のお話を伺うことが中心となるのではと考えていました。でも授業が始まってみれば、武井先生の言葉のほとんどが和歌山や日本を良い方向へ導くための「未来」に向けての提言でした。

ことに驚いたのは少子化に向けてのお考えで、「男性が女性の役割の中へ進出」と根本的な部分に触れていただけたことは、本当に嬉しく心強く思いました。これから育児に臨む女性が、男性の協力によって身体的にも精神的にも余裕を持てるようになれば、少子化改善につながるだけではなく、共に暮らす家族皆にとっても大きな利になると思います。

武井先生の背筋の伸びた生き方の秘訣は、柔軟な思考とフラットな目線で社会を見据え、自然体で生きていること……このあたりにもあるのかもしれません。

武井先生、どうもありがとうございました。

(授業レポート ライター部 大北美年)

 

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