2022/10/08 東京大学先端科学技術研究センター教授 神崎亮平先生 授業レポート

東京大学先端科学技術研究センター教授 神崎亮平先生 授業レポート  

10月8日、2時間目の授業は東京大学先端科学技術研究センター教授 神崎亮平先生です。
テーマは「見える世界、見えない世界 ~自然と調和し共存する科学技術をもとめて~」。
講師紹介では「サイボーグ昆虫」の研究について書かれていたので、そのお話が中心なのだと思いつつ、授業に臨みました。
ところが自己紹介の後、始まったのはご縁や人との出会いの大切さのお話。
「えっ?えっ?」
と、戸惑いつつも、次第にどんどん引き込まれてゆきました。

神崎先生によると、私たちが一般的に捉えている「科学」は西洋の考えが基になっており、キリスト教全盛期の16~17世紀に発達したものの由。
そのため、人は自然から切り離された特別な存在で、「自然を支配・コントロールする権限を持つ」という考え方が色濃く、科学の研究では常に人間のためだけの「一つの最適解」が求められてきたのだそうです。

対して、東洋の自然観は水や岩など万物に命が宿り、人間もその一部、という考え方。それぞれに違いを持つものが一緒に在るだけで、人間には特別感も権限もありません。
神崎先生は「科学」を扱うには東洋の自然観を取り入れ、「それぞれ違う」ことに視点を向けることが大切なのではないか、と考え、「誰もが幸せになれるための新しい科学技術を開拓」することをテーマとして掲げました。

一般的に大学で研究されている学問というものは、おのおの独立した研究室の中で行われ、外に開かれたものではありません。
ところが神崎先生は「制約があればぶち壊せ」との勢いで、6カテゴリー、51分野の研究者が連携して研究を進める場を東京大学先端科学技術研究センターに創設。
科学技術だけではなく、文科系の研究分野も加えており、それぞれの研究が連携、共有されることとなりました。
その後、そんな連携のノウハウを自治体にも伝えたい、と、センター長在任中に22の自治体・機関と包括連携協定を締結。和歌山県もその中の一つです。
また、熊本県のゆるキャラ・くまモンに研究員証を発行。(くまモンにはきちんと論文を書いてもらったとのこと)
大学で行われている研究を外へと開かれたものとし、実際に活用することで、「誰もが幸せになるための科学技術の開拓」を神崎先生は実践されているのです。

授業の最後に見せていただいたのは、さまざまな昆虫の能力です。
ミツバチやチョウはヒトには見えない範囲の色を識別するため、私たちとは見える風景がまったく違ってきます。
昆虫には他にも、青空の偏光パターンから方向を捉えるものがいたり、1秒間に300回の点滅を見ることができるものがいたり(ヒトは60回が限界)、体が小さすぎてこの大気が摩擦の大きなネバネバ状態だと感じるものがいたり……地球上の同じ環境に生きていながら、昆虫の体感しているであろう世界はまったく異質なものでした。
「脳は世界を構築する役目を果たしている。環境は相対的なもので、人間の感覚だけが最適解ではない」
そんな神崎先生の言葉を、身体感覚としてしっかり理解することができました。
ちなみに人間も、人それぞれ見えている色は微妙に違うそうです。

授業のまとめとして、神崎先生が挙げられた言葉は
「人間中心から自然中心への視座の転換」。
そして、そこには
「感動、共感、利他のこころを生む鍵が潜んでいる」。
殊に若い世代の人たちに気付いてほしいとのことでした。

これまで私たちは危機感を持ちつつも、経済活動を優先し自然環境を破壊、また利他よりも利己に走った者が勝ち組となるような世の中を生きてきたように思います。
「誰もが幸せになれるための新しい科学技術」の「誰もが」は人間だけではなく、地球上のあらゆる自然や生き物を指しており、そこから学びつつ共に生きてゆくことが、人間にとっての大きな幸せにつながるのではと感じました。
神崎先生、貴重な気付きをどうもありがとうございました。

(授業レポート:大北美年)

 

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