授業のはじまりは、テーブル上の6つの「盃」の目利きでした。
古美術商になったつもりで、6つの盃の予想店頭価格と最高値だと思う盃、そして自分の好みの盃を1点選び、その理由を考えました。教壇前に展示されていたので、皆さん入れ替わり立ち替わり、盃を手に、観察されていました。
最後に結果発表。皆さん結果に一喜一憂。
ただ、ここで大切だったことは予想価格の正解ではありません。
1.活動の紹介
盃の鑑賞時間中に先生の活動が紹介されました。
◎サラリーマン退職後、よろず塾
◎企画「歴史探訪バスツアー」
歴史的文化財や建物見学と美術館訪問を交えたバスツアー
熊野古道(和歌山県)、近江商人の里(滋賀県)、宇治「光る君へ」(京都府)
◎CONNECT GALLERY MOS
モスバーガー橋本彩の台店に アート作品を展示
◎勉強会
20人程度の勉強会。内容はよろず。(お月様について等)参加者も増えていたがコロナで休止
◎地域のアート展
古民家を改装し、4か月毎でアーティスト交代。展示会を行う。
◎たのしいアート展
美と生活の融合。アートの力を信じ、誰でも参加し、誰もが楽しめる「アートのボーダーレス化」を提唱されています。絵画、工芸、書道、彫刻に音楽も加え、伝統芸術、芸能もあれば、一般の方も参加できる体験型アートも。
2.本題
◎価値観について
美術品の価値(価値観・価格)は 時代の変化、作者の評価、美意識の変化、誰が所持していたかで変わる。(例:死後に評価されたゴッホ、骨董市で売られていた清朝の秘宝など)
そんな中で、日本人の美意識に大きな影響を与えたのが、「茶の湯」です。
村田珠光は物を排することで現れる心の豊かさを、武野紹鴎は物が足りない状態にも満足する慎み深い心を、千利休は日常にあるものに美(心)を見いだしました。
その後、茶道が広がりを見せるにつれて、茶道具に箱(由来などを記載)が付くようになり、道具はいくつもの箱に入るようになりました。
モノ(茶道具)に語り(箱)がつく⇒ 物語
この「物語」が茶道具にさらなる付加価値をつけます。
また、津田先生はもう一つの例として、かつらぎ町天野地区を紹介。にほんの里100選にも選ばれた田園風景広がる美しい地区は、白洲正子著「かくれ里」にて紹介されました。これもまた「物語」による付加価値です。
丹生都比売神社の丹生都比売大神は機織りや紀ノ川の水で酒を醸す事を教えたとされています。これを利用して、お酒や地域を盛り上げられるのでは…と、先生は新たな付加価値に期待されているそうです。
◎日本人とお酒
日本人は古来よりお酒好き。盃は文字のない契約書でした。(三々九度等)
「盃を交わす」のは、信頼に基づいた高度な文化です。再評価の価値があると津田先生は考えています。
◎美術品の鑑賞のしかた
美術品鑑賞の前に、予備知識を備えておくのは誤り。作品そのものから教わるものが第一。作者と鑑賞者がつながること。
絵は読むもの、書は観るもの
絵には文字がない。が、伝えたいことはちゃんと入っている。書は文字ではあるが、洗練された字体や力強さを鑑賞する。知識は2番手、まずは目で見えたとおりを心で感じること。
拈華微笑
かつて仏教の心理を伝える際、師は無言で一輪の蓮華を差し出し、弟子はそれを微笑で受け取ったとされる。
一番大切なことは目には見えない。言葉や文字でも伝わらない。心で感じ合うこと。
唯識の教え
自分の考えはあくまで自分の識(自分のこころ)の中で正しいことで、万人にとって正しいものではない(多進法)。自分の執着により判断していることを自覚し、他者を受け入れるこころ。美術品鑑賞に必要なこころです。
◎美のありか
見るもの、聞くものを受け取るのは自分自身。それが美しい、すばらしいと感じるのも自分自身。
「美」は美しいモノを識別しようとする「自分の心の中」にあり、美術(芸術)の完成は鑑賞する人の心の中にある。
◎心のありか
近代では脳、西洋では心臓(ハート)。日本人にとって「心」は体のどこにあるか?
答えは「腹(肚)」
「腹(肚)」を含む慣用句には「腹を割って話す」「腹が立つ」「腹を据える」などがあり、心、考え、感情、意志等を表している。
昔から日本人は「深く心に触れる」ことを「染みる」と表現。その心「腹(肚)」に触れるには、全身から「染み込ませる」ほか無い。
◎まとめ
最後に先生がまとめてくださいました。
① 美というものは無い、美を感じる「美しい心」があるだけ。
② 日本人の「心」は体の奥深くしみ込んだ「腹(肚)」にあった。
③ 「文字や言葉に頼らない」信頼に基づいた文化(酒と盃)があった。
④ 美術品は「唯識の心」をもって楽しみましょう。(二進法→多進法)
⑤ 美術品も地域も「モノと語り」で価値観を高めることができる。
⑥ 欧米流への憧れ一辺倒を見直し、今こそ「日本の文化」を、学び直そう。
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3.鑑定の結果発表
最高90万円から6位300円までの6種類の盃の目利きに全問正解者はいませんでした。それだけ価値観は多様だということです。
教壇前が混雑したため、手にとらずに判定された方も多数いました。実物を手に取り、じっくりと鑑賞しなければ、真の価値を見抜くのは難しいのだとも改めて感じました。
(授業レポート:丹田 美穂)
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