「これからの時代のためのRe学び」
~もう一度理科の実験を通じて これからの答えのない時代に生かしましょう~
大久保昇先生の授業は「私、近所なんですよ」から始まりました。
かつらぎ山(和泉山脈)を挟み山の北側に位置する場所で、先生は生まれ育ったとのお話。
先生との距離が一気に近くなりました。
1.自己紹介
1954年 大阪府藤井寺市生まれ、現在は神奈川県川崎市在住
実家は羽曳野市にて配電盤を製作する町工場を営む
1973年 京都大学工学部金属系入学
1979年 一時、高校教員を目指し、理科の教員免許を取得するも、(株)内田洋行に入社
PC・インターネット黎明期、教育の情報化関連や国のプロジェクトに多く関わり、政府の委員等も歴任する
1998年 教育総合研究所を設立
2014年 (株)内田洋行代表取締役社長に就任、現在に至る
公益社団法人 理科教育振興協会 会長
日本教育工学会 理事
NEW EDUCATION EXPO 実行委員長
宮崎県林業大学校 名誉校長
熱中小学校東京分校 校長
2.大久保先生と紀州かつらぎ熱中小学校とのつながり
①先生は中央構造線が大変気に入っているようです。東京から飛行機で、この上を飛んできたことを楽しそうに話してくれました。
また、中央構造線上に高野山、吉野山を始め、諏訪大社、伊勢神宮、高千穂神社など大きな神社仏閣が集中していることなども嬉々として話されていました。
②先生のお兄さんが絶滅危惧種の蝶「ルーミスシジミ」を取りに山に入り、和歌山で亡くなったそうです。
そのお墓は高野山にあるそうです。
③高野山と藤井寺市の百舌・古市古墳群は共に世界遺産。
先生も幼いころから、第十五代応神天皇陵や古墳群にはいろいろ思い出があるようです。
④道がつながっている。
東高野街道は、京都、藤井寺(国府)、羽曳野市(古市)を通り、河内長野を経て高野山へと通じる道。
先生の生まれた所とかつらぎ・高野山を結ぶ、古くからの街道です。
3.(株)内田洋行と学校教育
【(株)内田洋行 会社概要】
創業1910年2月。旧満州鉄道の資材を扱う貿易商として設立。
資産 50億円
社員数 3241名(2023年7月20日現在)
売上高 2465億円(2023年7月期連結)
上場基準の厳しい、東証プライム市場上場。
上場企業約1600社の内の800社くらいに位置しているとのこと。
売り上げの内訳は「ICT関連7割」「環境構築関連3割」だそうです。
(株)内田洋行が学校教育に関わるようになったきっかけは「ヘンミ式計算尺」の販売でした。
大久保先生の入社時はパソコンやインターネットの黎明期でもあったため、先生は国のプロジェクトにも多く関わり、世界25ヶ国の学校教育現場を訪問されたそうです。
カナダ、ハワイ、フィンランド、中国、シンガポール、イギリス等々を巡るうち、日本の学校教育の良い部分も良くない部分も見えてきたとのこと。
日本の教育の良い点としては、
- 諸外国に比べて教育格差が少ないこと
- 10年に一度、大きな教育指導改訂があり、修正がおこなわれること
だそうです。
4.学校での「学び」について
「皆さんは学校での学びは役に立っていますか?」
大久保先生はそう問いかけます。
そして、義務教育での授業時間の変遷を通して、日本の教育カリキュラムが変わってゆくさまを説明してくださいました。
世界各国の教育の内容や進め方は、その国の歴史と文化に深く関わっています。
ただ現在、世界の教育は知識の詰め込みではなく、「新たな事象を理解し、その課題の解決方法を得るための考え方を学ぶ」という方向に変化しているそうです。
5.理科の実験 ~理科の見方・考え方~
社会に有る自然の事物は理科室で再現できるとのこと。
実験、観察を通して、理科的な見方を養うための学びです。
理科的な見方とは……
自然の事物や現象を、質的・量的な関係や時間的・空間的な関係など、科学的な視点で捉える。
↓
比較したり関係付けたりして、科学的に探求する方法を見つける。
↓
上記を用いて考えることで、問題解決に至る。
*生物
生命に関する自然の事物・現象を主として、多様性と共通性の視点で捉える教科。
大久保先生は節足動物のうち、カブトムシ、イセエビ、ミジンコ等を例に挙げて説明してくださいました。
教室では実際にミジンコを「水玉グラス」に入れて顕微鏡で観察。一般的に知られている寝かされたミジンコではなく、立体的な生きた姿を大きなプロジェクターに映し、皆で見ることができました。
*化学
酸化・燃焼・爆発、を水素と酸素を用いて実験。
速度の違いにより、まったく違う現象が起こることを再認識しました。
また、水が凍る「瞬間」の様子を観察しました。
*物理
段ボール箱の空気鉄砲で、ドーナツ型の雲を作る実験です。
時々、テレビなどで見かける遊びなのですが、遊びを通して原理の探求にまで踏み込むことの大切さを先生は教えてくれました。
この実験を通して、
・データ作りに強くなる
・仕組み作りに踏み込む必要性があることを再認識する
この二つのことがわかりました。
「データの作成」については、新型コロナの感染者数を都道府県別に発表していたことの不具合や、すでに20年ほど前からデータに表われていた少子化問題について、先を見据えた行動を取らなければ意味がないということを先生は話してくださいました。
6.最後に
日本の人口は減少し、世界に占める日本のGDP占有率も減少、平成の時代には世界における日本の存在感は大きく下がってしまいました。
大久保先生によると、現在は「VUCA」の時代、
・Vulatility(変動性)
・Uncertainty(不確実性)
・Complexity(複雑性)
・Ambiguity(曖昧性)
なのだそうです。
世の中に正解はありません。失敗は想定外で起きています。
従来は「PDCA」、
・Plan(計画)
・Do(実行)
・Chek(測定・評価)
・Action(対策・改善)
として、仮説検証型のプロセスが一般的でしたが、これでは対応が難しくなっているのが現状だそうです。
「理科の実験を通しての再学習を、これからの答えのない時代に生かしてゆきましょう」
と、大久保先生は伝えてくださいました。
また、先生は自社の組織編制を組み替えたことが売上の上昇につながったことに触れ、正解がなく先の見えない時代ではあるが、物事の見方、考え方を変えることにより、違った未来、展望が開けることも語ってくれました。
7.授業を終えて
(株)内田洋行の現役社長としての具体例は、たいへんわかりやすかったです。
自分たちとはまったく立場は違いますが、これからの生き方の方向性を示していただき、また貴重な体験のお話も有難うございました。
最後になりましたが、紀州かつらぎ熱中小学校に大きなプロジェクターをいただき、誠にありがとうございました。
今後も学びに生かしてゆきたいと思います。
(授業レポート:読書部 木村年克)
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