24/09/07 和歌山県知事 岸本周平 先生

冒頭、岸本先生は
「熱中小学校は県下だけで3か所があり、ここ「かつらぎ」については、全国的に見ても成功している事例と聞いているが、今日来てみた印象として女性が多い」
という感想を述べられました。

また、自らの政治家としての経歴について、衆議院選挙での落選1期、当選5期の18年間について、ドブ板を踏んできたと表現されました。スーパーマーケットなどでの演説会では、ボロクソに言われることなど、しょっちゅうであったが、時には缶コーヒーや冷たいジュースを手渡されたこともあって、嬉しかったとおっしゃいました。

レジュメ「和歌山県の重点施策について」によりご講義をいただきましたが、特に説明されたのは以下の通りです。質疑応答に、より多くの時間を割いていただけました。

目次

 [共働き・共育て・こどもまん中社会の推進]

・今一番注力しているのは、県と市町村が半分ずつ経費を負担しての「学校給食費の無償化」である。
一つは子育て世帯の経済的負担の軽減。もう一つは滞納への対応等、学校の先生の集金にかかる手間の軽減という二つの目的がある。(先生が立て替えるケースもあると耳にしたが、そんなことがあってはならない)。

また岸本先生からは、滞納している子供はすぐに分かる、おかわりを絶対しないからという話も伺った。子供のこころを屈折させるようなことはあってはならないと切に思う。

 ・「こども食堂の拡大」については、低所得者対策と受け止められることが多いが、そうではなくて地域交流・多世代交流の場として取り組んでいる。現在75か所のところ、小学校区レベルの200か所まで増やしたい。

・「こども食堂」へは、すべての子供に声をかけたい。(低所得者対策で取り組むと、まず該当する子供は来ない)
ごはんを食べに来てくれたお年寄りが、その次からは食事を作る側に回ってくれた事例などもあり、またボランティアとして、大学生、高校生、中学生にも集まってもらって、いわば3世代、場合によっては4世代にわたる交流の場にしていきたい。

・「こども食堂」の充実は災害対策にもつながる。
昔は隣家と、電話や醤油や砂糖を借りられるような近所付き合いの濃密さがあった。
先の能登の震災でも、取り残された山奥の村の方が付き合いの濃密さをベースに、しっかりと生活ができていたというようなことがあった。

 

[災害対応力の強化]

・かつらぎ町は南海トラフの危険度は小さいかもしれないが、中央構造線には留意しておく必要がある。熊本、愛媛も中央構造線上にあたる。
災害対策は必須の課題であり、また喫緊の課題として、市町村と相談しつつ、トイレトラックを1→20台へ、暖かい料理のためのキッチンカーや更には防災コンテナや災害用ドローンの拡充を課題としている。

質問への回答

防災士資格者が県内だけで2,500名以上いると思うが、何をしていいのかわからない防災士が多数おり、十分に動けていない。これでは宝の持ち腐れではないのか。県が引っ張り出してコミュニケーションを良くしておくことはできないか。

→個人情報の課題はあるが、連携が図られるように指示する。

[成長産業の創出]

和歌山県は森林面積が80%を占める半島なのでアクセスも悪く、有力企業も数えられる程度で、県民所得は沖縄、宮崎に次いで低い(一方で、昔の木材や繊維で得た資産が残っており、預貯金残高は3番目に高い)。

ところが、今はGX投資、脱酸素の時代である。和歌山県は周回遅れとなっているが、今後は、周回遅れのまま、集団の先頭を走り続けていけるかもしれない。
例えばENEOSにはCO₂オフセットの為に森林クレッジットを販売し、森林整備にも取り込んでいく。
また、有田ではENEOSが次世代航空燃料の生産に着手しており、御坊は洋上風力の最適地として評価されている。

 串本での民間ロケットの打ち上げについては、年間20台を目標に計画しており、そうなると現在群馬県で行われている製造関連企業等が串本周辺に集まってくることとなり、南紀の景色が変わると岸本先生は考えている。

 

[農林水産業の強化]

農林水産業は観光事業と並ぶ、和歌山県の核となる産業であることは変わらない。
農林水産業では、林道の整備(幹線林道)の加速化による持続可能な林業・木材産業の形成を掲げ、また農業担い手対策の拡充にも引き続き取り組む。

 質問への回答

農業については、儲かっていない農業への対策が、県として必要なのだと考えている。
担い手については、農業者は経営者であり労働者でもあり、大変な能力が必要だと考えている。そのため、法人的な組織でサラリーマン的に技術を学んでもらい(職業訓練)、その中から能力のある人材には独立して農業に携わっていただくというようなイメージも持っている。
U
ターンを増やすにあたって、若者がイメージする格好いい大人には、第一次産業従事者を含む。また、第一次産業従事者には、要介護者もいない。

 

[観光産業の強化]

インバウンド対策もあり、まずは空港名を「熊野白浜リゾート空港」に変更したうえで、滑走路を2,000→2,500mに延伸したいと考えている。そうしないと、外国のチャーター便が入ってこれない。

和歌山には、インバウンドが感じ取り共感共鳴する、3つの「S」がある。
(「Spirituaiity,Sustainability,Serenity」)。

意見と回答

知事の講義では横文字が使われておらず、分かりやすいと思っていた。ところが、ここだけ横文字になっており、心に響かない。「精神性、自然環境、静謐さ」の「S」としたらどうか。
そうする。

 

例えば、高野山などの神仏習合に見られる「アレかコレかの選択」ではなく「アレもコレもという包容」の精神性、更に敵も味方も一緒にまつる供養塔の寛容性。
また、よみがえりの地・熊野は1,300年前からジェンダー平等を実現していること(月のさわりの和泉式部の夢に熊野権現が現れて、その状態のままで参拝できたというお話。なお、高野山の女人禁制は、女神丹生都比売が、やきもちをやくからという事情からと認識。)。「小栗判官・照手姫の物語」にみられる(障害者なども楽しめる)ユニバーサルツーリーズムの先駆けがあることなど。

以上に限らず、和歌山には、神武東征に始まる「神代・古代」から「中世」「近世」、そし「近現代」に至るまで、モノガタリを財産として豊富に有しており、これを活かしていきたい。

質問への回答

2040年に向けた新統合計画において、商工、労働、観光から観光を切り離し、地域振興と組み合わせたのは、所帯が大きすぎると思ったから。観光と地域振興は親和性もあると感じた。やってみて駄目なら、また変える。

・華岡青洲が、地元民が期待するほど知られていないことについて、私は知らない方がおかしいと思っている。県や市町村からの発信に、より多くの問題があるとは思っていない。例えば、上述の「近現代」でのエルトゥールル号のモノガタリは、映画化という発信により、広く知ってもらうことができた。

 

[県職員採用の見直し]

県職員の採用試験について、面接試験と論文試験だけでの採用枠20名を設定し、倍率は
6
7倍に上った。

日本経済のこの30年間にわたる後退については、あらかじめ答えがあってその答えを導き出すだけの、ペーパーテストができる子供を育てて来た教育に問題がある、他人に対して素直で外れることのない受け身の人材は、日本の為にならないと、岸本先生は考えている。
自分でモノを考える教育を推進し、自ら問いを生み出す人材を育てることが肝要。

そういう観点から全国知事会では、全国一斉テストの廃止を提案するつもりである。

そのことにも関連して、「好きこそものの上手なれ」ということもあり、県内高校5校に、eスポーツのモデル校を設置、県内大会も開催した。
世界的な市場の拡大や新たな若者文化が形成されるなかで、地域活性化、地域文化の形成、デジタル社会も念頭に、eスポーツの推進プロジェクトに取り組んでいる。自身が知事の間は、止めないつもりだとのこと。

 

[その他]

・少子化問題について、婚活推進から手を引いたのは、結婚するかしないかは、本人の自由である以上、県が手を出す問題ではない(結婚することが是する考えの押し付け)と判断したため。但し、結婚して子供ができたら、より楽で良くなったと感じてもらえることには取り組みたい。婚活予算は、学校給食費に振り替えた。

・本日のようなタウンミーティングの機会を増やしてほしい。
精力的に取り組んでいる所存。本日で40回目になる。

・モラルの低下は観光客だけでなく、県・国道の草刈りを委託したあとに、コンビニ袋などのゴミが散らかっており、難渋している。委託先、更に下請け先への教育をお願いしたい。モラルの低下は嘆かわしい。委託の入札の際に縛るということかもしれないが、手続き的には難しい感じがする。

・移住者について、土砂災害のレッドゾーンでは補助金(リフォーム)が出ないので、移住の話が流れる。何とかならないのか。
そもそもレッドゾーンへの移住を県として推進することは人命のことを考えると出来ない。龍神などは全域が該当し苦渋している。

・新統合計画においてのNPO育成や学校のクラブ活動への取り組みについて、如何。
止まっている。学校のクラブ活動については、そもそも先生の成り手がいない。町道場などに上手く移せないかと考えてはいる。

 

岸本先生、多岐に渡るさまざまな事案についての丁寧な説明、回答をどうもありがとうございました。

(授業レポート:小林 一行)

 

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