「天野の里づくりの会」会長・谷口千明先生 授業レポート
10月8日、紀州かつらぎ熱中小学校最初の授業は「天野の里づくりの会」会長・谷口千明先生でした。
テーマは「地域のよさを生かした里づくり」。
かつらぎ熱中小学校の校舎「ゆずり葉」は、昔ながらの田園風景が広がる「天野の里」と呼ばれる地域に建っているのですが、先生のお話を伺ううち、この風景は自然と残っているものではなく、ここに住む方たちが先々のことを熟慮し、維持管理をして「意図的に残されている」ものなのだということがわかってきました。
里づくり活動のきっかけは1996年に始まった「天野地区 圃場(ほじょう)整備事業」だとのこと。全区民で話し合い、
・田んぼの形は変わるが、昔からの天野の里の趣を残す。
・耕作放棄地を出さない。
この二つが大きな柱となったそうです。
2004年には高野山町石道と「丹生都比売神社(にうつひめじんじゃ)」が世界遺産に登録され、
「増加した参拝客や観光客をどう維持し、活用してゆくか」
と、谷口先生をはじめ天野地区の方たちは未来に目を向けての行動を起こします。
そうして2006年12月に発足したのが「天野の里づくりの会」でした。
地域おこし、といえばそこに住んでいる人たちがメンバーなのだと思われがちですが、「天野の里づくりの会」には正会員とサポート会員とがあり、後者は地区外に住む天野の里のファンやリピーター。しかも、
「ボランティアの心は大切だが、それだけでは長続きしない」
と、時給制を取り入れ、まずは400円から始まった時給が2021年度には800円にまでアップ。手当てを出すことで、充実した取り組みを継続できているとのことです。
そんな「天野の里づくりの会」が主に行ったことは以下の5つです。
①ウォーキングコースを整備してマップを作製し、高野山や町石道から天野へと人の流れを作る。
②「企業のふるさと」による異業種交流の推進(和歌山県が発祥となった取り組み)。
伊藤忠商事と提携し、社員のふるさととして田植えや稲刈り体験を提供する。また、柵の設置や草刈りなど、社員に農村の労働力をカバーしてもらうことで交流が深まり、天野の人の温かさを感じてもらえた。
さまざまな事情により2022年度で14年間の活動を終えるが、この経験が次への大きなステップへとつながった。
③そばを栽培し、「そば打ち体験」の実施。
伊藤忠商事からクボタへと人脈がつながり、そばを栽培するためのコンバイン等の無料リースを受ける。
その後、ヤンマーがそれを受け継ぎ、そばの種まきから収穫まですべてを機械化。
そばをメインにしたイベントを開催し、参加者に天野の自然と美味しさを満喫してもらう。
④田舎ぐらしのサポート体制の充実(過疎対策)。
大阪の「和歌山田舎ぐらしフェア」に4年連続参加。移住者の受け入れ体制を手厚く整える。
それが功を奏し、2020年には全世帯に対しての移住者の率が31%を越えた。移住者は若い子育て世帯が多い。
⑤その他、継続しているものとして、町石道・丹生都比売神社の見回りと保全、ホタル観賞会の開催。
産業化としては「竹パウダー」(野菜や果樹の肥料、またはぬか床に使う)、乾燥野菜作り、干し芋作り。
最後に、紀州かつらぎ熱中小学校の校舎として使わせていただいている「ゆずり葉」についてのお話も伺いました。
小学校統廃合が推進された2007年、地域住民の意向を無視するかたちで天野小学校が廃校となり、住民へのアンケートをもとに跡地の活用が真摯に話し合われたとのこと。
そうして校舎のかたちを維持したまま、1階には交流スペース、2階には宿泊スペース、3階には研修スペース、体育館と運動場、駐車場も併せ持つ現在の形となったそうです。
谷口先生のお話をお聞きして一番大切だと感じたのは、「今」だけではなく「未来」をも見据える力です。継続してゆくためにはどうしたらよいか、そのためにできることは何なのかを常に考えておられるように思いました。
また、外部を巻き込んで積極的に受け入れ、耳を傾ける姿勢を感じました。
「ちょっと頑張ればできることから始める」
所々に挟まれた先生のこの言葉も心に残るものでした。
何かを継続しつつ成し遂げるには、「先々を見据え、場を開かれたものとし、ちょっと頑張ればできるところから始める」。
この学びを大切にしてゆきたいと思います。
谷口先生、どうもありがとうございました。
(授業レポート:大北美年)
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