23/09/02 Salon de R 山田 玲子 先生

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「食でコミュニケーション 食は一番身近な外交」 

 

紀州かつらぎ小学校第2期、6回目2時間目の授業は料理教室「Salon de R」を主催する料理家・山田玲子先生です。 

2002年家庭画報「とっておきのおかず大賞」で審査委員特別賞を受賞され、著書として『おにぎりレシピ101』『NY発!サラダBOWLレシピ』『定年ごはん』を出版。

 復興支援としての「食べて買って作って東北を応援しよう」を2012年から開催中です。

 

また、小学生の国際交流の活動を通じ、食する事は人の輪なりと感じ、「美味しい料理はあなたを想う温かい心から」をコンセプトに、マダムなおうちごはんを大笑いの中、無理なく楽しく大胆に調理。 お料理とともに、おもてなしのコーディネートから笑いの心意気まで伝授されています。

 国内はもとよりNYやヒューストン、スペイン 韓国 シンガポールなど海外でもレッスンを開催。 各地で食を通じて人々と交流を深めている中で、「食は一番身近な外交」であると実感されています。

 2015年からは熱中小学校の講師に。 紀州かつらぎ熱中小学校へは初めての来校です。 

 

料理家になった理由 

1983年、山田先生は国際団体CISV(チルドレン・インターナショナル・サマー・ビレッジ)に参加 。これは15ケ国の人々がフィンランドの小さな村に集まって小学校の廃校を使い、1ヶ月間キャンプをするというものです。 

参加するのは各国21歳以上のリーダー1名と11歳児4名 。なぜ11歳児なのかというと、ちょうど子供から大人への変化の時期だからという事でした。

そんな若い人たちが総勢約100名、あらゆる国から集まります。公用語は英語。アメリカ、イギリス、カナダは英語圏ですが、フランス、イスラエル、コスタリカ、ホンジュラス、オランダ、ノルウェー等は、英語の基礎知識だけで参加しています。

 今から40年前、日本でもまだ小学校での英語教育などなかった時代です。先生と一緒に参加した子供たちは教育に意識の高い家庭で育ち、成績も良く元気でやる気満々、公の場に出てもおじけづかないような子供たちでした。

 リーダーとして選ばれた先生は当時まだ22歳、機内で缶ジュースを噴射したり、乗り換えのために降りたロンドンのヒースロー空港では早朝5時の静かなロビーで爆竹を鳴らす、そんなとんでもない悪戯っ子たちに悪戦苦闘されたそうです。

 

 その後、無事に到着して本番のキャンプが始まりました。元気な子供たちでしたが、挨拶の「hello」、お礼の「thank you」、失敗した時の「sorry」が言えなくて、大事な友達作りができなくなっていました。いつも山田先生の周りにいるばかりで積極的に話しかけることができず困っていました。 

 

そんな時におこなわれたのがキャンプの行事、「一日各国デー」。自国の文化を紹介するもので、 日本は浴衣を着て花笠踊りを披露しました。子供たちは練習の成果を充分に発揮。その後、その国ならではの料理をふるまうのですが、 先生は「外国まで運ばなくてはならないのだから、軽い材料で済む「ちらし寿司」がいい」と言われて、それを用意していました。

でも、今から40年も前のことです。世界の人たちにお寿司はほとんど知られていませんでした。 ましてちらし寿司はもっと知られていませんでしたので、乾物のかんぴょうや椎茸が水の中で膨れ上がるのを見て、各国のお手伝いの人は驚いて逃げてしまい、山田先生と子供たちは100人分のちらし寿司を自分たちだけで作ることとなってしまいました。 

それはとても大変でしたが、出来上がったちらし寿司は大好評。あまりの美味しさ、めずらしさにおかわりが相次ぎました。 このおかげで子供たちは友達が出来て、なぜか調子よく話が通じるようになり、お菓子を「チェンジ」したりして仲良くなることができました。そうしてキャンプの終わりまで楽しく過ごせたようです。

 

「キャンプは まだ2週間もあるのに、友達もできず会話もできない、ホームシックの子供たちをどうしよう」と困っていた山田先生は、ちらし寿司をきっかけとした状況の変化を目の当たりにして、美味しい、は各国共通なのだと実感したそうです。

「人間は食べないと生きていけないから、食は一番身近にあるコミュニケーションツールなのだな。食っていいな」

と、先生は漠然とながら、将来は食に関わる仕事をしたいと思われたそうです。

そして36歳で料理家になり、その後、食でコミュニケーションが取れるという事を信条にしてきておられます。

 

男性クラス 父子クラス 一人親の子供クラス 

2003年、山田先生は市川市の依頼を受け、男性クラス36名の料理教室を始めました。男性クラスではエプロンの付け方がわからない人が続出、包丁を独り占めしてしまう人や、やたらフライパンを使いたがる人が多く、その順番を決めたり、たまった洗い物をするよう促したり、まるで子供を相手にしているような1から10までの指導が必要でした。

ところが、6カ月無事に料理教室が終わった時には、男性クラス全体に仲間意識が芽生え、

「これからも月に1度集まって、皆で料理をやりたい」

と言う人が30名にものぼったそうです。食を通じて仲間が出来たと言うことで、市川市としてもとても良い企画になったということです。

 

 父子クラスは、お父さんと幼稚園児でクリスマスケーキとお弁当を作るという教室です。おにぎりを握って、おかずは先生が作ったもの、それを好きなようにお弁当に詰めて持って帰るのですが、幼稚園の先生がその様子を見ていて、子どもの詰め方はお母さんのお弁当の詰め方とそっくりだと言われたそうです。

 

 一人親の子供クラスでは、お母さんが野菜を切り出すとまな板と包丁の音に、子供達が飛び跳ねて喜びます。一人親の家庭では仕事が忙しくて料理をする時間が取れず、どうしてもカット野菜の利用や市販のお弁当が多くなるとのこと。

でも子供達が喜ぶ様子を見て、時々は料理をしてみたいと思うお母さんが多いそうです。

 食は食べる事だけではなく、作る事も大事なのだと感じました。 

 

食育って何だろう

子供たちの間で食育と言われていますが、 食べ方や栄養の教育ではなく、次の5つのコショクが問題となっています。

  1. 孤食:一人で食べること。 

2.個食:家族で一人ずつ食べる料理が違うこと。残されたり、文句を言われたりするのが嫌だから、それぞれ好きな物を食べる。 

3.固食:メニューが少なくて、3種類くらいの料理を日替わりにして、そればかりを繰り返し食べる。 

4.小食:食べる量が少ない。

  1. 粉食:パスタやパンが主食となり、お米や野菜を食べない、という食べ方です。 

 

山田先生はキッズドアという学習支援の団体から、17時~21時までの学習支援の時、生活保護を受けている家庭の小1~高3の子供30名の食事を作って下さいと頼まれました。 ここで驚いたことは、台所で野菜を切り始めると子供たちが見に来るのです。普段の食事はカット野菜ばかり、まな板で野菜を切ったりしないので、小さい子供たちにはトントンする音が心地良いのです。 焼き色を付けたり、お味噌汁がグツグツいっている音や匂い、ご飯が炊けた匂い。 美味しいと食べて喜ぶだけでなく、調理中の匂いや音も子供にとってはとても大事です。

そうして半年、キッズドアで調理を続けて、先生は食は五感で感じるものだと思われたそうです。 

また、生活保護を受けている家庭の子供たちは買ってきたお弁当などを一人で食べていることが多いため、料理の名前を知らない。 豚汁は 給食で食べているはずですが、名前を知らない子供が多い。それは食の経験値が少ないからでした。

 食事以外でも、日常生活を送る中、普通に経験しているであろう体験をしていない子供たちが多いそうです。 

これらは私にとって、不安と悲しみを感じるお話でした。でも、先生から、

「9月からも食事支援に行きます。」

という、力強いお言葉がありました。 先生の笑顔と行動力に拍手を送ります。 

 

異文化コミュニケーションのツールとして

近年、日本の「食」は共働き世帯が増えて、大きく変化しています。 例えば定年退職をした夫と妻のお昼ご飯問題。夫は、

「普通のご飯が食べたい、外には出たくない、お弁当は嫌だ」

と。 妻は、

「普通のご飯って一体何?それよりも自分の時間がほしい、習い事にも行きたい。せめて週1回でも自分でお昼ご飯を作ってほしい」

と、二人の間に意識のギャップが生まれています。

 病気など急な事があっても、家族が安心していられるように、 自分で自分を守れるように、 共倒れしないように、 夫婦どちらもが自分で自分をサポートできる環境を準備する必要があります。

 

 料理ができる→自慢や自信になる→コミュニケーションツールになる→家族に何かあっても大丈夫→健康を意識する

このようにいい循環が生まれますし、健康に生活できることにつながります。

 定年後の準備はお金だけじゃなく、重要なのは食です。 

 

山田先生の授業の最後には、朝、生徒有志のおにぎり隊が作ったおにぎりが全員に出されました。 6種類のおにぎりです。

・イワシとオクラ→岡山県

・黒とろろ→富山県

・ピーナッツ味噌ハチミツ入り→千葉県

・しそワカメ→萩

・和歌山の山椒と十勝のチーズ→和歌山+北海道

・コクホウダケ(茸)とスダチ、ほりにし→かつらぎ町 

 

 冷めていてもどれも美味しく、ころんとした大きさも絶妙で、6種類のおにぎりを味わう事が出来ました。ピーナッツ味噌ハチミツ入りと山椒チーズは、私にとって始めての具材でしたが、とても美味しく頂きました。

先生の経験から「ご飯に合うおかずは、おにぎりにも合う」のだそうです。

 

授業を終えて

私は夫と二人の生活が10年くらいになります。 我が家にも深刻ではありませんが、お昼ご飯問題がありました。夫は文句を言わないで何でも食べる人でしたが、外に出たくない人で、私が1日出かける時はちっちゃなギャップが生じました。しかし、年と共に、動かない夫に3食は重くなって、おやつ等に変わりました。

 

お互いをサポートし合うというのは、共倒れしないためにも大事な事だと思います。 昔、夫にお料理をする?と聞いたら、イヤダ、とキッパリ断られた経験があります。 今度はお料理ではなく、おにぎり作りから勧めてみたいと思いました。

 

スタイル抜群で、ノースリーブのワンピースにワイルドな日焼けをした先生は、とてもチャーミングでした。授業では人生の冒険の旅を聞かせていただいたようで、楽しい時、苦しい時、深く考えさせられる時、どんな場面でも前向きに考えて進まれているように感じました。

今後もお元気で活躍される事をお祈り申し上げます。おにぎり美味しかったです。ありがとう御座いました。

(授業レポート:ライター部 大崎美恵子)



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