23/05/06 介護老人保健施設 みゆきの丘施設長 仙道富士郎先生 授業レポート
5月6日、2時間目の授業は仙道富士郎先生です。
タイトルは「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)から何を学ぶべきか」。
「なぜ今この話なのか、世界を揺るがした非常に大変な感染症とは何だったのか、と振り返る良い時期なのではないか」と先生の授業が始まりました。
COVID―19は最も新しい新興感染症である
WHO(世界保健機関)によると、この20~30年の間に新しく認知され、公衆衛生上の問題となる感染症は「新興感染症」と呼ばれ、コロナは最も新しい新興感染症。他にもこれまでに30種類以上の感染症が出現しているといわれています。
例:エイズ、SARS、新型インフルエンザ、エボラ
COVID―19は人獣共通感染症である
脊椎動物とヒトとの間で自然に伝播しうるすべての病気、感染症を「人獣共通感染症」と言い、新興感染症の75%は人獣共通感染症ということです。
COVID―19は何故パンデミックになっていったのか?
人が引き起こした環境変化が大きな影響を与えています。
森林伐採によって食べ物がなくなったためコウモリが人里に出現するようになり、コウモリに宿っているウイルスが家畜に感染し、それが人に感染していったオーストラリアのヘンドラウイルス感染症や、インドでは一頭の牛の死骸を100羽のハゲワシが30分で片付けていたのに、もっと働かせようと抗炎症剤を打たれた牛の死骸を食べたハゲワシがすべて死んでしまい、放置された牛の死骸から炭疽病が蔓延しました。
これらは全て人間中心主義で、人間が引き起こした環境変化がウイルス感染として人に返ってきたという証明になり、環境変化は動物の生態系にも多大な影響を及ぼしていることがわかります。
他にも温暖化による氷河融解でホッキョクグマが海に流され、追い詰められて人を襲うという事例を挙げて「人間だけが地球の主人公ではないということを考えなくてはいけない」と先生は話されました。
自然と人との関係性について
近代文明の発達によって人間が自然に対して身勝手なことをしてきたのではないかと思わされるところが多々あると、先生はすべてのものが人間のためにあるという思い上がりの人間主義を批判する『絡まりあう生命』(奥野克巳著)という本を紹介して下さいました。
日本ではすべてのものに神(山の神、田の神など)が宿るという自然信仰があります。「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」という草一本にも仏がやどるという仏教の言葉があり、山形県では伐採した多くの木の供養と運搬に携わる木流しの安全祈願としての「草木塔」が、江戸時代より多く建てられてきました。梅原猛(哲学者)の草木塔碑文には、
「山形には一木一草の中に神性を見る土着信仰が強く残っていたからだろう。(中略)草木とのつながりなくして人間の生命がありえないことを深く認識しなければならない。草木塔の建立は、時代にひとつの警鐘を与えるものであろうと思う」
と、記されています。
私たちは今、何をしなければいけないのか
「人新生(ひとしんせい)」とは、最近の人類の活動が、恐竜が絶滅したかつての小惑星の衝突に匹敵するような地質学的変化を刻み込んでいることを表す新造語です。人新世に生きる私たちは、今後何をすればよいのかを考えなくてはなりません。急速な人口増加や大量の工業生産、グローバリゼーションによる世界経済の変化から引き起こされる温暖化や気候変動など、人類は地球環境に大きな影響を及ぼしていることを認識して、いったん立ち止まることの大切さを先生は話されました。
「産業革命から急速に進んだ人間社会の成長が地球にとって望ましいことなのか? 今コロナ感染症が起きたことは長年の人間の身勝手な成長のつけがまわってきたということではないのか? 」と、先生は私たちに問いかけられ、成長という目標から一歩下がって立ち止まり、ものを深く考えてから再び良い方向へと歩みを進めていくこと、それを先生が最初に挙げたテーマ「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)から何を学ぶべきか」の答えとしますと締めくくられました。
授業を終えて、思うこと
私たちは長い間コロナウイルスに怯えて暮らしてきました。今もその恐怖がなくなったわけではなく、ウイルスとの共存を模索しているように思います。仙道先生のお話を伺って、ひとりの人間として反省しなければならないことがたくさんあると感じました。
人間中心主義について先生が話されていた時、開いた窓の外から「私だってここに生きているよ」というように、野鳥の澄んだ鳴き声が聞こえてきました。その声を耳にして、日頃は地球全体のことなど気にも留めていない私ですが、改めてコロナウイルス感染症や地球環境について深く考えなくてはと思いました。
先生のお話には初めて聞く言葉も多く難しいところもありましたが、目先のことだけに捉われずに、立ち止まってグローバルに物事を捉え、未来に向かって自分に何ができるかを考え、ゆっくりと進んでゆきたいと思いました。
大病を克服され、まだまだ生きたいと強くおっしゃられた仙道先生。
これからもお元気で、この先の時代を見届けていただきたいと思います。
とても貴重なお話をありがとうございました。
(授業レポート 読書部:永山郁子)
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